2018年5月23日水曜日

3 罪や過ちは消すことができないのか?(1)

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3 罪や過ちは消すことができないのか?



 駅前のバーガーショップを、オレたちは「いつもの場所」と呼んでいた。
 ここで寄り道して3人で駄弁(だべ)るのが日課になっていたからだ。

 でも、オレたちがそれぞれの『いま幸せ』を見つけてからは、あまりここへはきていない。3人でこの場所にくるのはひさしぶりだった。

 おのおのがドリンクだけを頼んで2階へと向かう。
 オレたちが「いつもの席」と呼んでいたところはすでにほかの客が座っていて、オレたちはやむを得ずほかの席に陣取ることになった。

 オレの向かい側に、誠一くんと賢策くんがならんで座る。

「それで――」
 誠一くんが切りだした。
「いったい何があったんだ? 俺たちの仲なんだ。遠慮しないで話してみなよ」

 誠一くんの声はとてもやさしくて、オレのなかにあった『自分の力だけで解決するんだ』という頑(かたく)なな思いはあとかたもなく氷解した。

 オレは俊矢のことを話した。
 話しだしたら言葉がとまらなくなった。
 ひとりで悩みつづけてきた苦しみが一気に吐きだされていくようだった。


 誠一くんと賢策くんは、真剣にオレの話を聞いてくれた。
 オレがひととおり話し終えると、誠一くんと賢策くんは顔を見合わせ、そして、それぞれが思案顔になった。

「まいったな……」
 誠一くんがきまりわるそうに言った。
「俊矢くんが去っていった原因は俺にもあるんだよな……なんだか責任を感じるよ」

「それはちがうよ。誠一くんにはなんの責任もないよ。問題なのは、俊矢自身の『罪悪感』なんだ」

「そう、そのとおりだよ」
 賢策くんが言った。
「誠一はただのきっかけであって本当の問題はそこじゃない。問題は、彼自身の『罪の意識』にあるんだ。誠一が責任を感じる必要なんてどこにもないよ」

「そのとおりなのかもしれないけど……」
 誠一くんはますますむずかしい顔になった。
「だとしたら、なおのことやっかいな問題だぞ。本人の意識の問題だとしたら、俺たちにできることなんて何もない。この問題は俊矢くん自身で解決するしかないってことになる」

「最終的にはそういうことだよね。
 カツオが『自分が何を言っても上から目線で無責任なことを言ってるだけ』と判断したのは正しいと思うよ。心の問題に他人がへたに足を踏みいれたりしたら、彼はかえって心をとざし、ますます自己否定をするようになるだろうからね」

「それじゃ、俊矢のためにできることは何もないってことなの?」

 オレが絶望的な気持ちでそう尋ねると、賢策くんは頭(かぶり)をふった。

「いいや、何もないわけじゃない。最終的には彼自身で決着をつけるしかないんだけど、でも、まわりの人たちはそのための『きっかけ』を与えることならできる。
 実際、誠一の存在が彼の罪悪感を呼び起こすきっかけになっただろ? だから今度はポジティブなきっかけを与えてやればいいんだ。つまり、『罪の意識に縛られる必要はない』と彼が悟(さと)れるように、さりげなく導いてあげるんだよ。
 もっとも、その『きっかけ』をモノにできるかどうかは、やっぱり彼自身にかかってるんだけどね」

「どうすれば、俊矢にその『きっかけ』を与えられるんだろう?」

「それには、まず……」
 誠一くんが言った。
「俺たちが『罪』というものについて、もっと理解する必要があるよな」

 そしてオレたちは、
『いちど犯した罪や過ちは、消すことができないのか?』
 という難題に挑(いど)むことになった。

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