2018年5月19日土曜日

2 あんなに一生懸命だったじゃないか……(3)

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 今日のテストが終わった。

 帰り支度をしていると、賢策(けんさく)くんがオレのところへやってきた。

「カツオ、今日はジムに行くまで時間があるんだよね? だったら少し話さないか?」


 賢策くんは、この高校にはいってからできた友達のひとりだ。
 頭脳明晰で成績優秀、運動神経抜群でサッカーが得意、おまけにアイドル系の超イケメンときているのだから女子にはモテモテだ。
 でも完璧すぎるそのキャラクターのせいで、男子のあいだでは孤立しがちだったんだ。

 1年のとき、賢策くんとおなじクラスだった誠一くんが、ひとりでいる賢策くんに声をかけた。
 それがきっかけでふたりは親しくなり、そして誠一くんの紹介で、オレは賢策くんと知り合いになったんだ。

 2年になってからは、3人ともおなじクラスになったこともあって、一緒にいる時間がとても多くなった。
 オレたち3人は、いまでは親友なんだ。

「やめておくよ……」
 オレは頭(かぶり)をふって答えた。
「いまは、ひとりで考えたいんだ」

「そうか……それならしかたないよね」

 賢策くんはさわやかな笑みを残して、オレの前から去っていった。
 賢策くんもまた、オレのことを心配してくれてるみたいだ。

 誠一くんといい、賢策くんといい、本当に頼りになる親友だよ。
 でも、いまは頼ってはいけない気がするんだ。


***
 昨年の11月、ある出来事を機に、オレたち3人は「本当の幸せってなんだ?」ということについて話し合った。
 そして、たどりついた結論が、
「幸せは未来にはない。幸せになりたければ『いま』でなければダメなんだ」
 ということだった。

 オレたちは『いま』を幸せにするために『上機嫌』をはじめた。
 正直、はじめは軽い気持ちだった。
 でも、この試みはオレたちに大きな変化をもたらした。

 モテるのをいいことに女性関係が不誠実だった賢策くんは、騎士道精神に目覚め、ただひとりの女性を大切にするようになった――

 暮咲さんにひそかな想いをいだいていた誠一くんは、勇気をだして暮咲さんに声をかけ、ふたりは恋人同士になった――

 そしてオレは、小さいときからずっとやりたいと思っていたボクシングを、意を決してはじめることができた――

『上機嫌』を実践(じっせん)することによって喜びの感情で満たされたオレたちは、心が自然と前向きになっていたんだ。
 そして、それぞれの『いま幸せ』を手にいれることができたんだ。
***


 誠一くんと賢策くんのやさしさに、あまえたくなる自分がいる。
 でもそれは『弱い自分』なんだって、オレにはわかってるんだ。

 だから、あまえてはいけない。
 いまここであまえたりしたら『へたれ』だったころの自分にもどってしまう。
 そんな気がしてるんだ。

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